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<E2-22>キレる配偶者~事例夫婦B
<E3-22>キレる配偶者~事例夫婦B
次に「引き下がり」のケースを取り上げてみたいと思います。二人の夫に登場してもらいたく思います。
まず、最初の夫婦を夫婦Bとしておきましょう。夫がクライアントでした。
彼ら夫婦は非常に不安定なところがあり、彼がキレるということも頻繁に見られるのです。どうやら妻の方が精神的に脆いところがあり、些細な刺激に過剰に反応してしまうといった傾向が認められるようでした。
彼は自営業をしておりまして、家庭にも仕事部屋があります。夫婦の間で、彼がキレそうになると、彼はその仕事場の方に引き下がろうと試みるのであります。
きっかけはさまざまでありますが、彼の中で不穏な感情が生じるのであります。イライラすると彼は言うのでありますが、それを彼は飲み込もうとします。外に出さないようにするのです。
彼がそのようにしているのは傍目からも分かるようで、妻はそこに干渉してくるのであります。「また機嫌悪くしてる」などといちいち指摘してくるのであります。
彼がちょっと黙っていてくれなどと言うと、彼女は「そうやっていつも逃げる」などと、またそこに干渉してくるのであります。
こんなやりとりが続くと、彼はその場を去ろうとします。去ろうとすると、また妻が「あ、逃げるんや」などと干渉してきます。
彼は仕事場へと引き下がろうとするのですが、時にはそこまで妻がついてくるのであります。彼は引き下がろうとするのですが、妻がそれを認めないというわけであります。
どこまでも妻が食い下がってきて、そしてついに彼がキレてしまうというのが、彼ら夫婦のお決まりのパターンであったようであります。
彼がキレて、妻の方も逆上して、激しい言い合いを展開して、その後はウヤムヤになっていくようです。彼はその言い合いがどのようにして終わるのか、あまり明確に覚えていないのであります。お互いに自分の部屋に下がって終わる、それしか彼には言えないのでした。
カウンセリングにおいて、彼はよく「僕が悪いと先生はお考えですか」と、自分の正当性の保証を求めてきたものでした。彼のために言っておくと、彼は自分が悪いというところは受け入れるのですが、それ以外のものまで悪いとされるのが耐えられないようであります。すべて彼が悪いという話になっているようであります。
その他、彼は自営業で働いていて、少数ながら部下にも恵まれています。私がうかがった限りでは、この部下たちは彼に信頼を寄せているようであり、良好な関係を築いているようでありました。彼自身、部下思いの人であったのです。どういうわけか妻に対してはそれができないようにも私には感じられたのでした。
しかし、それは正しくないようであります。彼が言うには、彼は妻に対しても同じように気を使い、配慮していると言います。妻が困っている時には助言をしたりもするし、落ち込んでいる時には励ましたりするそうであります。妻の方は彼に対してそういうことをしないそうで、それもまた彼が妻を許せなくなる要因であるようでした。
彼がキレてしまった翌日にも、彼は妻と話し合いの場を持ち、自分の要望(妻に対してキレたくないからおとなしく引き下がらしてほしい)を伝え、妻に対しては助言なり励ましなりを与え、関係を回復しようとしてきたようでした。
また、彼の夫婦観として、夫婦は対等であるのが望ましいけれど、その上で夫がイニシアティブを取った方がいいと考えているようで、伝統的な夫婦観が彼の中で、多少ではありますが、あるようであります。
さて、この夫婦Bの二人ですが、夫がカウンセリングを受けに来た頃には離婚がほぼ決定していました。そして、最終的に離婚をしたのでありますが、それもかなり難航したのでした。その辺りの経緯はここでは省略しておきましょう。
キレるということに関しては、彼が言うところでは、それまでそういうことをした人はいなかったということであります。妻に対してだけキレてしまうということであり、これまで出会った人の誰に対してもそういうことは起きなかったと言います。
彼は「信じてくれますか」と私に訊くのでありますが、私は信じております。彼は精力的で男らしいという感じの人でありましたが、暴力的とはとても言えないのであります。彼の、夫婦以外の、さまざまなエピソードにおいても、彼がそこまで激しくキレるという場面が見られないのであります。
それはさておくとしても、彼がそのように保証を求めてくるのは、彼の中で罪意識が働いているからであると私は考えています。反省感情が生まれているのであります。悪いことをしたと思うので、本当に悪いことをしたのかどうかを確かめずにはいられないのかもしれません。「自分は絶対に悪くない」などといった開き直りが彼からは感じられないのであります。
彼のカウンセリングですが、離婚した妻が訴訟を起こしたので、そちらに彼の時間が取られるようになって自然消滅した形で終了しました。より正確に言うと、妻の訴訟を彼はあまり重大視していなかったのであります。私は少し気になっていたので(本項では記述していませんが)、妻のような人はどんなことを言い出すか分からないから、彼自身を守れるように準備しておいてくださいと、彼にお願いしたのでした。
案の定、妻があれやこれやと訴え始めたのでした。その訴えの一部は事実とは異なることが明らかにされたのですが、仕事場へ引き下がろうとする彼に食い下がってきたのと同じように、ここでも妻は彼に食い下がってくるわけであります。
この裁判が泥沼化していったために、彼はカウンセリングから遠のいていったわけであります。
最後にB夫婦に関してでありますが、私は夫Bさんと半年近く面接をしてきました。その細かな内容は控えるのでありますが、彼ら夫婦の話もたくさん伺っております。夫婦が上手くいっている場面というものがあまり無いという印象を私は受けております。おそらく、妻の方が結婚のストレスに耐えられなかったのだろうと思っています。妻はそれだけ弱々しい人であるようで、だから彼のような逞しい男性を選んだのかもしれません。
結婚当初から離婚まで、夫婦Bは、上手くいっている場面が極端に少ないという気がしています。最後には離婚してしまうのでありますが、ちょっと無理な結婚であたかもしれません。
(文責:寺戸順司―高槻カウンセリングセンター代表・カウンセラー)