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<T2-6>フロイトの精神分析

<T2-6>フロイトの精神分析 

 

 フロイトは精神分析の創始者であり、治療者でした。その理論や方法論に批判や反論している立場も数多くありますが、フロイトが生涯かけて取り組んだのは、人間の破壊衝動をいかにして望ましいものに昇華(1)し、愛情能力を回復していくかというテーマだったように思います。 

 実際、「健康な人格の条件は何か」と弟子に質問された時、フロイトは「愛することと働くこと(Lieben und Arbeiten)」と答えたそうです。深淵な答えを期待していた弟子の中には、この簡潔な答えに失望した人もあったようです。 

 でも、私はこの言葉ほど的を射た表現はないと思います。毎日神経症の患者さんと会っているからこそ出てきた言葉のように私には思われるのです。 

「愛することと働くこと」とは、愛情能力の回復と攻撃衝動の昇華を述べているものです。私の考えるところでは、この両者は切り離すことができないのです。片方に問題を抱える人は、他方をも達成できないと私には思われるのです。 

 結婚して職に就いていればそれで両者を達成したとは言えないのです。そういう外側の基準では測れないものなのです。どんなふうに相手を愛し、働いているかということが肝心なのです。 

 カウンセリングに訪れるクライアントはこの両者のどちらかにおいて問題を抱えておられるのです(2)。クライアントと会っていると、フロイトの言葉の的確さを私は実感するのです。そして、それを達成することの困難さをも実感するのです。 

 フロイトの取り組んだテーマは21世紀に生きる私たちにこそ課せられているのではないでしょうか。 

私たちは本当に人を愛することができているでしょうか。離婚率の上昇、未婚率の増加、さらにはDVや虐待、体罰、いじめの問題、どれも社会問題になっている事柄ばかりです。これは私たちが愛情能力を獲得していると言えるでしょうか。うつ病や自殺、自傷行為でさえ自分を愛することの困難を示していないでしょうか。 

また、働こうにも失業率の増加、就職困難者の学生たち、ワーキングプアの問題、どれも労働に関しての問題です。そのような問題を抱えている日本社会において、私たちはどのようにして真の労働を達成できるでしょうか。就労していても、それが、破壊衝動を昇華するよりも、新たな憎悪を生み出したりしていないでしょうか。 

 

 

(1)昇華とは、望ましくないものを望ましいものに置き換えていくことです。人を刺し殺したいという願望を抱える人が、推理小説家になったり、外科医になったりすれば、それは殺人衝動を昇華したと言われます。注意すべき点は、望ましくない願望や衝動を失くすということではなく、それを社会的に受け入れられる形に置き換えていくという点にあります。 

(2)この両者の問題というのは、「心の病」の原因ではないのです。「心の病」の結果として、両者の領域に困難が生じているのです。例えば、離婚を取り上げてみましょう。愛情関係が破たんして「心の問題」を抱えるのではなく、「心の問題」を抱えているから愛情関係が破たんしていることの方が多いのです。 

 

(文責:寺戸順司―高槻カウンセリングセンター代表・カウンセラー)