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2021年1月16日 土曜日

1月16日:書架より~『人さまざま』

1月16日(土):書架より~『人さまざま』(テオプラストス著) 

 

 先日読んだ片口先生の本の中で本書に触れられていた。それを契機に僕は本書を思い出した。僕は20代の前半の頃に本書に出会っていて、読んでひどく感激したものだった。いつか現代版の「人さまざま」を書いたら面白いだろうななどと当時は考えていたことも思い出す。 

 著者であるテオプラストスは紀元前4~3世紀の人で、アリストテレスのお弟子さんだった。たいへん博学な人であり、多くの著書をしたため、けっこうな長寿をまっとうされた人だ。この本は、成立のいきさつには諸説あるようであるが、人間の性格に関する世界最古の本であることに間違いはない。 

 本書では30の性格傾向並びに行動傾向が挙げられている。それぞれ最初に定義をして、続いて実例を並べるという構成を持つ。いくつかの章ではその後に結語めいた文章が付されている。その30の性格傾向とテオプラストスの定義を列挙してみよう。 

 

  1・空とぼけとは、行いでも言葉使いでも、実際よりも以下のふりをしてみせることである 

  2・へつらいとは、恥ずべきものであるが、へつらう当人には得になる交わり方である。 

  3・無駄口とは、思いつくままの言葉を、長ったらしく喋る話しぶりのことである。 

  4・粗野とは、無作法きわまる無知である。 

  5・お愛想とは、しんから相手のためを思う心もないのに、つい巧みに相手を喜ばせてしまうような付き合い方である。 

  6・無頼とは、恥じてしかるべき言語動作を、一向に頓着せぬ図々しさである。 

  7・おしゃべりとは、抑制のきかぬ話しぶりである。 

  8・噂好きとは、噂を好む人自身の思いつくままに、いい加減なつくり話やつくり事を捏ね上げることである。 

  9・恥知らずとは、いやしい利得のために、人の思惑をものともせぬことである。 

 10・けちとは、度を越して、出費の出し惜しみをすることである。 

 11・いやがらせとは、露骨で無作法きわまる悪ふざけである。 

 12・頓馬とは、たまたまかかわりをもった人たちに、相手を苛立たせるような話をしかけることである。 

 13・お節介とは、言葉と行いとを問わず、気が良すぎて引き受けすぎることである。 

 14・上の空とは、言語動作における心の動きの遅鈍さである。 

 15・へそまがりとは、言葉使いの点で、態度の無礼なことである。 

 16・迷信とは、鬼神に対する臆病である。 

 17・不平とは、あてがわれたものを不当にけなすことである。 

 18・疑い深さとは、誰に対しても不正の疑念を抱くことである。 

 19・不潔とは、人に不快の念をもよおさせるほども、体の手入れを怠ることである。 

 20・無作法とは、実害を及ぼすわけではないが、嫌な思いを人に与える態度である。 

 21・虚栄とは、卑俗なる名誉欲である。 

 22・しみったれとは、出費を必要とするような公事への気前のよさを持ち合わせていないことである。 

 23・ほら吹きとは、実際には身につけていない優雅さを、身につけているかのように見せかけることである。 

 24・横柄とは、自分自身以外の他の人々を軽蔑することである。 

 25・臆病とは、恐怖のために心のくじけることである。 

 26・独裁好みとは、権力と利益を執拗に求める支配欲である。 

 27・年寄りの冷水とは、年甲斐もなく、教養ごとに憂き身をやつすことである。 

 28・悪態とは、何を口にしても、悪口になってしまう心の性癖である。 

 29・悪人びいきとは、悪を欲することである。 

 30・貪欲とは、いやしい利得をむさぼることである。 

 

 以上が本書収録の性格傾向ないし行動特性である。上記の定義を読んだだけで、本書をほぼ読んだに等しくなってしまうのだけれど、本書の真骨頂は実例部分にある。ここには2400年前のギリシャの人たちの生活が活き活きと描かれている。確かに、習俗、風習、文化も異なるけれど、この人たちの生活場面を見ていると、現代とさほど変わらない気がしてくる。現代の日本人が読んでも、ああこういう人おるおるなどと思ってしまうのではないだろうか。そして、そういう人たちを心のどこかで笑う気持ちが生じているかもしれない。でも、それは取りも直さず、自分自身を笑っているのだ。きっと、本書はそのようにして読まれるのが正しいだろうと僕は思っている。 

 本書に収められている人たちは徳があまり高くない人たちである。その言動は愚劣なものである。テオプラストスの本望は、そういう徳の高くない人の愚劣な行為を見ることで、読者が自分自身を正すことにある。その意味では、本書は自分自身について書かれたものであるという認識を持って読むのが正しい読み方であるように思うわけだ。 

 さて、現代版の「人さまざま」が書かれるとしたらどんなものになるだろうか。きっと、テオプラストスのと大した違いはないだろう。人間は今も昔も変わらないものである。 

 

 最後に、本書の唯我独断的読書評価は、断然5つ星である。普通に読んでも普通に面白い一冊だと思う。 

 

<テキスト> 

『人さまざま』(テオプラストス著)森進一訳 岩波文庫 

 

(寺戸順司―高槻カウンセリングセンター代表・カウンセラー)

投稿者 高槻カウンセリングセンター