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2022年4月21日 木曜日

4月21日:ミステリバカにクスリなし~『夜の壁画』

4月21日(木):ミステリバカにクスリなし~『夜の壁画』(邦光史郎) 

 

 最初に海外の推理小説にハマっていた僕が日本の推理小説に目覚めたのは17歳ころだ。それから20歳頃まで日本の推理小説も片っ端から買って読むようになった。本作はその時に買った一冊で、正直言って、あまり印象に残っていない。もともと苦手なスパイ小説ということもあるし、日本のスパイ小説というのはいまだにピンとこないところがあるためでもあろう。 

 とにかく、あれ以来、およそ30年、一度も本書を紐解くことがなかった。今回、処分してしまおうと思っていて、最後に少しだけ読んでみるかと本を開いたところ、これがなんと、とても面白いではないか。 

 

 昭和30年、日本でロケット開発が始まり、39年にはその分野では世界第3位に達していた。日本のロケットは低予算で性能がいいのである。そのため、諸外国はその技術を欲しがっているのだ。 

 松原機関に所属する諜報員島村はそんな日本のロケット技術が競りで売られているのを見て愕然とする。日本の技術が海外に流用されて、核搭載の日本製ミサイルで日本が攻撃される日がくるかもしれない。彼は単独で調査を開始する。 

 情報屋のワン大人に依頼して、その競りで日本の技術を競り落とした人物を突き止めた。林永福という男で、今はホテルに滞在しているという。ワン大人は部下の女をそのホテルに泊まらせて動向を見張らせるも、女の部屋で死体が発見されてしまい、手を引くことになる。敵の方が一枚上手なわけだ。 

 個人で取り組むのは限界があると感じた島村は松原機関を動かすことに成功する。しかし、その松原機関に敵は盗聴器を仕掛けており、こちらの動きが相手に筒抜けになっている。やはり敵が一枚上手である。 

 彼らはロケット開発に関係している人物をリストにし、情報を売りそうな人間に目を付けるが、まさか、もっともその容疑の薄い人物が情報を売ろうとしているのである。赤根という科学者で、彼は家庭の事情で金が要るのである。ロケットの情報が高く売れるなら売ってもいいと密かに思っていたのである。 

 その赤根であるが、教授の娘との新婚旅行中に何者かに拉致されてしまう。それどころか、彼の望みである情報売却は達せされずに終わる。やはり敵が一枚上手で、敵は一文を払わずに赤根から情報を盗み出したのである。 

 さらに松原機関の裏をかくかのように、敵はラムダ三型ロケットを盗み出してしまう。どこまでも敵に出し抜かれてしまう。 

 島村たちは行方不明の赤根の後を追っていたが、ワン大人から日本語の話せる船舶員を探している人物がいることを知る。情報を盗み出した連中であろうと目星をつけた島村は、単身敵の懐に飛び込んでいく決心をする。 

 

 ごくおおまかにストーリーの流れを追ってきたけど、ともかくスピーディーな展開でグイグイ惹きつけられてしまう。どこまでも敵の方が一枚上手であり、主人公たちよりも先手を打ってくる。また赤根の処遇に見られるように、敵はどこまでも残忍である。敵がそれだけ強敵である分、主人公たちに精彩が欠けてしまう感がある。 

 いや、そこが本作のちょっとした難点だ。もちろん僕にとっての難点という意味である。単身で敵陣に踏み込んだ島村だが、林永福たちを倒すのは別の情報機関である。その間、彼は船の中で幽閉されていたのである。主人公が強敵と戦わないというところも今一つ精彩を欠くように思う。ただし、主人公島村は仇敵とも言うべき小見山と最後に一騎打ちする。なんとなく逆であった方が良かったと思う。小見山との対決は次回作に回して林永福と対決してほしかった。 

 上手く言えないのであるが、物語はさまざまなエピソードが詰め込まれていて、いささか詰め込み過ぎという感じがしないでもないが、それでもスピーディーに展開する心地よさがあるのだけれど、最後が締まらないという印象が残ってしまった。あくまでも僕の個人的感想である。 

 そして、読後のいささか不穏な余韻は、結末だけでなく、スパイという影の世界も影響しているのかもしれない。主人公は影の存在である自分に何度か問い、言い聞かせる。この世界を描くことが著者の目的の一つであるのかもしれない。要するに、そこには人間的な幸福が欠けているのである。非情の世界なのである。主人公は愛する女との再会も果たせずに散る。全体的に幸福感とは無縁という感じがしないでもないのであるが、そこもまた読後の印象を不穏なものにしているように思った。 

 

 さて、文庫本で250ページほどの作品であるが、内容が濃いことだけは確かだ。結末は主人公の活躍に不満があるとしても、ストーリー自体はとても面白く、展開も速い。読んでいて本を置くことができなくなる箇所もある。ただ、読後の爽快感には乏しい。悲劇を読んだ気持ちになる。それでも決して悪くはない。 

 僕の唯我独断的評価は4つ星だ。スパイものが苦手だという僕でもこれだけ楽しめたのだから、スパイもの好きの人だったらもっと面白いと感じるのかもしれない。 

 それで、この本を処分するかどうかだけれど、現在、迷い中だ。 

 

<テキスト> 

『夜の壁画』(邦光史郎)春陽堂 

 

(寺戸順司-高槻カウンセリングセンター代表・カウンセラー) 

投稿者 高槻カウンセリングセンター