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2021年6月22日 火曜日

6月23日:唯我独断的読書評~『初雪』

6月23日(水):唯我独断的読書評~『初雪』(モーパッサン) 

 

 モーパッサンのくさるほどある短編の中から、主に男女の関係に関するもの、それも女性側の視点に立った作品を中心に6篇が収録されている。 

 

1・「花まつり」 

 花まつりに来た二人の女たちの会話。一人の女は女中を雇った。それも何でもこなす完璧の女中だった。ある時、彼女は警察の訪問を受ける。逃走中の脱獄犯が潜んでいるということであり、警察はその女中を連行する。実はこの女中は女装した男であり、男は強姦の罪で刑に服していたところ脱獄したとのことである。 

 自分の女としての魅力を傷つけられた憤りは、相手が強姦犯であっても構わないようだ。一度も痴漢に遭ったことのない女性は本当なら幸運であるはずなのに、なぜかそのことでプライドが傷つけられているという女性も僕は知っているのだけれど、同じような心理だろう。ある意味では貪欲なのだ。貪欲なまでに自分の女性としての魅力を認めてもらいたいのだ。認めてくれる相手が痴漢だろうと強姦犯だろうと構わないのだ。そのように僕には見えてしまう。 

 また、ガールズトークというものは、古今東西、あまり違いはなさそうだとも思った一篇だった。 

 

2・「初雪」 

 寒い地方に住んでいる夫婦のお話。夫はこの環境に馴染んでいるけれど、妻はどうしても慣れない。暖房機を買ってほしい、気候のいい土地を旅行したい、妻のそうした懇願は夫に却下される。妻が自分の要望を通すために試みたことは。 

 なんとも痛々しい話である。妻が自分の要望を満たすためには、夫にそれを了承させるためには、妻はあまりにも多くを犠牲にしなくてはいけない。ある意味、命がけだ。状況は違えど、現在の日本でもこのような妻たち(夫婦によっては夫たち)がいるのを僕は知っている。 

 

3・「内証話」 

 この話から第5話までの三篇は同じ登場人物による連作の体裁を持っている。人形のように可愛い二人の女性、グランジュリー男爵夫人とレンヌドン侯爵夫人が登場する。レンヌドン夫人はブサイクな夫を持っておるそうで、夫婦のあれやこれやを二人が語るという形式が共通している。 

 本編では、レンヌドン夫人が我慢のならないブサイクな夫に一杯食わせる話で、なかなか痛快でもある。 

 尚、内容はだんだんエスカレートしていく。 

 

4・「流し目」 

 同じく二人の夫人が登場する。向かいに住む女性が窓から流し目を送って男をひっかけたのをグランジュリー夫人は見る。夫人は自分の方がもっと上手くできると思い、試してみると、簡単に男をひっかけてしまった。それはいいとしても、そのことが問題になりそうだということでレンヌドン夫人に相談する次第。 

 ひっかけた男に仕返しするだけでなく、夫も巻き込もうとするところ、女は恐ろしいと思ってしまう。  

 

5・「命拾い」 

 同じく二人の夫人が登場する。レンヌドン夫人はついにブサイクな夫と離縁する決意をする。彼女は一計を案じて、夫に離婚を認めさせる決定的証拠を捏造することに決めたのだった。つまり、夫を罠にかけるということだ。 

 妻を大事にしないととんでもない復讐をされてしまうかも。しかも、夫に同情する人間なんて現れないのだから、世の夫は不幸である。 

 

6・「情婦」 

 新潮文庫版では「ポールの恋人」と題される一篇だ。僕はこの話のシチュエーションがよく分かっていない。船上パーティーと水上パーティーの混合のようなものとして解釈しているのだけれど、それが正しいのかどうかよく分かっていない。 

 それはともかく、上院議員の息子であるポールは情婦のマドレーヌとともにパーティーに参加している。マドレーヌは友人(同性愛の女)と一緒になり、ポールは一人取り残されたようになる。 

 彼は自分がこの場にそぐわない人間のように思えてきたのだろうか、世界の中で居場所を失ったように感じているのだろうか。釣り上げられた魚と自分を重ね合わせてしまったりする。彼はそのまま海に飛び込み、命を絶ってしまう。釣り上げられた魚のように、彼の遺体も釣り上げられる。すでに息絶えている。ラストに描かれるのは、女の心変わりの早さである。 

 踊りまわる人々、喧噪な音楽など、賑やかな情景が丹念に描写されるほど、ポールの孤立感が浮き彫りになるようだ。情景描写は読むのが煩わしいと感じられる部分もある。つまり冗長なところも僕には感じられたのだけれど、主人公の孤独をコントラストに描いているようにも思われ、そう思うと、賑やかな情景の中にも一抹の寂寞感を覚える。作品としてはすごくいいと僕は感じている。 

 

 さて、以上の6篇、女嫌いの人はさらに女が嫌いになること間違いなしだ。なんとも女の汚い部分を見せつけられたような気分になる。強姦犯にさえ自分の性的魅力を認めてもらえないことを悔しがる女、自分の要望を認めさせるために命をかける女、人形のように可愛い(はずの)二人の夫人の言うことやることのエゲツなさ、恋人が死んでも未練もなく速やかに心変わりする情婦、こういうのを読むと女がイヤに思えてくるのだけれど、その一方で、それでも女を愛せますかと突きつけられているかのよう。 

 

 僕の唯我独断的読書評価は、4つ星半だ。モーパッサンなのでハズレは無いと決め込んでいるのだけれど、この種のストーリーを、6篇と言わず、10篇くらいは収録してほしかったところである。分量的にチョイと物足りなさがある。 

 

テキスト 

『初雪』(モーパッサン) 

丸山熊雄 訳 角川文庫 

 

(寺戸順司-高槻カウンセリングセンター代表・カウンセラー) 

投稿者 高槻カウンセリングセンター

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