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2018年8月21日 火曜日

8月21日:ミステリバカにクスリなし~『穢れなき殺人者』

8月21日(火):ミステリバカにクスリなし~『穢れなき殺人者』 

 

 先日、ブリス・ペルマンの『顔のない告発者』を読み、なかなか面白かったので、同じ作家の手になる別作品も読んでみる。それが本書『穢れなき殺人者』である。個人的にはこちらの方が面白いと感じていたし、過去に2度か3度読み返している。今回、新たに再読してみる。 

 

 夫を交通事故で亡くし、二人の子供を女手一つで育てているドリアは、ある夜、隣人のジョルダンの訪問を受ける。ジョルダンはドリアを犯し、絞殺してしまう。 

 翌朝、いつものように目覚めた11歳の双子の姉弟、マリエクとパトリックは、母親が冷たくなっているのを発見する。父親も母親も死んだ。このことが表にバレたら、自分たちは寄宿学校に入れられてしまう。それだけは絶対にいやだ、今の生活を続けたい、そう考えた双子は名案を思いつく。母親が生きていることにすればいいのだと。そうして双子は母親の死の隠蔽工作を開始する。 

 一方、気が気でないのはジョルダンだった。ドリアの死体が発見され、報道され、警察が来るのではと怯え続けている。しかし、事件の報道はなく、警察が来ることもなかった。自分は確かにドリアを殺したはずなのに、どうして事件にならないのだ。それが却ってジョルダンの不安を掻き立てる。 

 不安に駆られ、探りを入れるジョルダン。その他にも、母親を訪ねる人は後を絶たない。お節介な婦人会会長のジョゼファ夫人、フランソワーズおばさん、母親の雇用主などなど。その都度、読者にとってはサスペンスが高まり、双子が虚偽の報告をしたりしてやり過ごしていく姿に安堵したりする。 

 面白いのは、双子の行為の意味が理解できず、大人たちが翻弄されてしまうところである。ここにはある種のユーモアさえ感じられる。 

 しかし、秘密が暴露されそうになった時、ついに事件が起きる。二人目の死者が生まれてしまうのだ。 

 

 本書は1982年度の「ミステリ批評家大賞」を受賞しているとのこと。批評家を唸らせるような作品だったということだろうか。でも、なんらかの賞を受賞していてもおかしくはないと思える作品だ。 

 子供たちは母親の死を悲しまないのだろうか。こんな疑問も浮かんでくる。子供にとっては、母親の死を悲しむよりも、寄宿学校に入れられて、今のこの生活から引き離されてしまうことの方が大問題だったのだろう。おまけに、次から次へと母親が生きているという虚偽を装わなければならない場面が押し寄せてくる。とても悲しむ余裕すらなかったのかもしれない。 

 ところが、双子は、普段から母親に注意されていることをきちんとやるようになっているのである。このために憲兵隊はだまされるのである。子供だけで生活していたら、これほどきちんとしているはずはないと思い込んでしまうのである。双子は母親との同一化を通して、母親を喪失した苦しみを緩和しているのだと考えることができるのだ。きちんとしようとしている双子を見ると、僕には痛々しい思いがした。 

 

 さて、本書の唯我独断的読書評として、僕は4つ星半を進呈しよう。アンファン・テリブル(恐るべき子供たち)を描いているとか、ミステリでもありながらユーモアも描かれているとか、いろいろ評価すべきところもあるけど、なによりも良質のサスペンス小説を読んだという気持ちになる。 

 

<テキスト> 

『穢れなき殺人者』(1982)ブリス・ペルマン *原題はフランス語のため割愛 

 荒川浩充 訳 創元推理文庫 

 

 

(寺戸順司―高槻カウンセリングセンター代表・カウンセラー) 

投稿者 高槻カウンセリングセンター

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